「海と日傘」 演出より

静かに、激しく

演出 山入桂吾

 作者の松田正隆氏は京都を拠点に活動している劇作家・演出家で、2006年に黒木和雄監督が映画化した『紙屋悦子の青春』の原作者である。今回の『海と日傘』は1996年に「演劇界の芥川賞」ともいわれる岸田國士戯曲賞を受賞した作品だが、同時受賞した鈴江俊郎氏や前年受賞者の平田オリザ氏とともに、松田氏は1990年代以降の「静かな演劇」という潮流の代表的な作家とされている。何をもって「静かな演劇」というかはわからない(あるのかどうかも)が、今回の演出にあたって意識していたキーワードではある。

 さて、読書の楽しみ方に、文字が書かれていないところの意味を読み解くことをさす「行間を読む」というのがある。それになぞらえれば、役者と役者の間に交わされるセリフや演技の「間(ま)を見る」舞台にすること(間抜けや間延びにならないように…)が、今回の作品のポイントだと考え稽古に取り組んできた。何げない言葉のやりとりの裏にある穏やかな、そして時には激しい感情の動き。そのような役者の心から生まれる「波」が寄せては返すように客席という「海」に広がることを祈る。

あらすじ

 作家の佐伯洋次は、高校の教員をしながら妻直子と静かにくらしている。直子は病を患っており臥せがちだったが、お人好しの大家、瀬戸山夫妻や、編集者の吉岡らに支えられ、つつましく日々をおくっていた。 残暑も幾分遠のいたある日、直子が倒れ、医師から余命わずかであることを告げられる・・・。

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