「先生」を待ちながら…

作者 楠本 幸男

 私たちの劇団も、創立42年となった。劇団員の多くが、定年退職を迎える頃にさしかかってきた。私は大阪でよく、芝居仲間と交流するのだが、彼らの所属する劇団の多くが40年、50年という歴史をもつ。そのなかには企業の演劇部から発展して劇団となったものもある。戦後、しばらくたった頃、人々は文化に飢え、大企業の労働者が会社の演劇で芝居をしていた時代があったのだ。そして年月がたち、どの劇団も高齢化が進む。古いメンバーは会社を退職し、悠々と(?)年金で暮らしをたてながら芝居をする。一方入団してくる数少ない若者は、ほとんどがフリーターだ。「若い人たちは年配の人たちを見て、どう思うだろう?」と考えたのが、この作品を書く発端だった。

 日本は、社会保障が機能し、かつては「一億総中流」と呼ばれたこともあった。しかし、この20年ほどで非正規労働者が増え、格差社会が急激に進行した。昨年夏、ニューヨークウォール街で始まった「オキュパイ運動」がたちまち世界中に広がったように、世界中で貧富の格差が急激に進行している。この日本はこれからどこへ進むだろう?そして世界は?それよりもなにも、本番を間近にした稽古場は、セリフが出なくてのたうち回る古い劇団員たち。作者の私は、その中に身を置き、自分も出てこないセリフにのたうち回る。虚と実が織り混ざり、さて、この芝居のゆくえは?

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