ドラマの書き方

楠本幸男

第5回(続)どういう場面を設定するか?

「第3回」で場面の設定について書きました。ここではもう少し具体的に、戯曲に描かれる「場所」をどこにすればいいか考えてみましょう。「時代」についてはひとまず置いて、「現代」に限定して考えてみます。もちろん、何度も書いているように、自分が好きに設定すればいいのですが、物語を発展させていかせやすい場所というのがある。したがって、この設定を誤ると物語が続かなくなってしまって、にっちもさっちもいかなくなることがよくあります。だから私は「場所」の設定が戯曲の成功を左右する1つの鍵だと思っているわけです。

主人公の部屋や、家というのが一般的ですが、ここではそれ以外で考えてみます。人がたくさん出入りする場所というのは作家にとって都合がいい。場面を変えなくても、人間の方からきてくれるのですから、一場面だけで芝居を完結することも容易です。ホテルのロビー、病院の待合室、公園のベンチなどがそれで、実際に多くの戯曲がそういう場所を設定して書かれています。駅のプラットホームもいいですが、電車を登場させるのが大変です。短いものならいいですが、長くなるといつか電車が来ないと不自然に見えてしまいます。私は、公衆浴場の脱衣場という設定で芝居を書こうと思いましたが、挫折しました。(テレビドラマでかつてそういうのがありました)そこでは人は裸にならねばなりません。それに登場人物が男ばかりとか、女ばかりとかに限られてしまいます。もっとも、小劇場系の劇団で、銭湯を舞台にしたものがあったみたいですが。考えてみれば、小劇場系は、商業演劇や新劇のやらないところをねらっている節がありますね。南河内番外一座では、プラットホームを舞台に、実際に電車を登場させましたし、劇団桟敷童子は、舞台に機関車を登場させて客を驚かせました。

作家が書きやすいということのほかに魅力的な場所というのがある。公園のベンチなどはやはりそのナンバーワンでしょう。季節感を出すこともできるし、そこではいろいろな人生をかかえた人々が目に浮かびませんか。仕事に疲れたサラリーマン、老齢期を迎えた男女、倦怠期を迎えたアベック、公園を住居にしている人…ドラマのイメージが広がっていく「場所」というのが確かにあるのです。

いま、国際宇宙ステーションが建設中です。これなどは、密室空間ですし、外へ出られないという設定がおもしろい。けんかしても出て行けない。おまけに、出身国はさまざま。おもしろい喜劇ができるとは思いませんか。

(2008.5.4)

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